ある百貨店でのこと、地下から上層階までエレベータで上がりました。
歴史を感じるクラシックなエレベータが6機ほど並ぶ壮観なエレベータホール。 カゴ内の扉は手入れの行き届いた真鍮製のパイプシャッターで百貨店の気概を感じます。
今どき珍しくエレベーターガールが添乗し、扉の開閉や各階の案内をしてくれます。
外食産業同様に百貨店業界も、消費の冷え込みで厳しい局面に直面していて、あらゆるコスト削減施策に取り組んでいるようです。 そんな中『人』という最もコストの掛かることを貫いている方針には、大切なことを教えられた気持ちになります。
私の乗り込んだカゴは割りと混雑していて、途中階で幾度か停止する度、扉付近にいた私はその都度いったん外に出て降りる方の出口を開けます。 添乗員から『お出口を開けていただきありがとうございます』と停止階の度に声を掛けられました。 私は『いえいえどういたしまして』という想いを声に出さず、会釈に留めたリアクションを返します。
マニュアル的なやり取りの中でも、心を込めて話し掛けてくれる対応は接客力を重んじる百貨店の方針が少し見えた気がしました。 もしくは添乗員の優しさや資質かもしれないが。
2~30分後でしょうか、私は上層階から再びエレベータで地下に移動します。 クラシックなエレベータなので、最新鋭のハイテク機とは違い、並列するカゴが合理的に連動するような器用さはありません。 なかなか扉が開かず、少しイライラ。(次の打合せの時間が迫っていたので‥ )
やっとひとつの扉が開きカゴに乗り込むなり『地下1階をお願いします』と私。
その後、思いもよらないことが起こったのです。
『先ほどはお出口を開けていただきありがとうございます』。
偶然にも行きと同じカゴに乗り込んだようです。 添乗員は私のことを覚えていてくれて、行きの対応にお礼の言葉を述べてくれました。
6機ほどあるエレベータの中で、偶然行き返りとも同じカゴに乗り込んだことも驚いたのですが、添乗員が顧客認知をしてくれたこと、更にアドリブで気の利いたパーソナルな対応をしてくれたことは衝撃的でした。
エレベータの移動時間とははかないもので、その後、添乗員と特に会話を交わすこともなくカゴは地下に到着。 打合せの時刻に遅れそうな私は、残念ながら振り返ることなく、手を振ることもなく、百貨店を後にするのでした。
エレベータ内の滞在時間は短いです。 飲食店の滞在時間は短くないです。
『顧客認知』、『(マニュアル的でない)パーソナルな対応』。
最近、飲食店で受けてないな、と思ったのでした。 |